トロリンガー 飲み易い南ドイツの赤ワイン

ドイツの赤ワイン - トロリンガーTrollinger

- シュヴァーベン地方のディリーな赤ワイン -


Trollinger(トロリンガー):

晩熟を採り、早熟を飲む。
とは、ドイツワイン研究所のキャッチコピー。
殆どうちの地方でしか植えられてませんが、それには理由があります。
このブドウ、熟すのがすんごいゆっくり。しかも、熟すに太陽というか暖かみが必要という、ドイツの日照環境において、何とも贅沢なブドウちゃん。
そのかわり、植えられる土地には余り文句を言わないのです。

晩熟であるこの赤い品種は、南ドイツでは既にローマ時代に植えられていた。
その名前は、南チロル原産を示すもので、元々「チロリンガー(そりゃまぁチロルのワインだから、何となく納得がいく)」であったのが、誤ってこの名になった可能性があるという。
名前がヘンな風に変わっちゃうのは、良くあるこってす。

教皇庁の教皇使節アレクサンダーの報告によれば、マルティン・ルターがドイツ国議会からヴォルムスへ向かった際、このワインで気を上げたという。
ちょうど宗教改革で、ルターのおじさんは、カトリック教会へ反旗をひるがえすところだったのだ。

このブドウ、いろんな名前が付いていて、それはすなわち、変種が数多くあることを証明してるっていわれる。
例えばエジプティッシャー(オーストリア・房がピラミッド型をしているので)、バンメラー、ブラウアー・トロリンガー、ボックスアウゲ、ボックスボイテル、等々。

ボックスボイテルって、フランケン地方の平たい丸い形の瓶を指すばかりかと思ってたけど、違うのね。
ボックスなにがしというのは、直訳すると、山羊のなにがしということになります。つまり、形や何かの形容な訳だ。目とか、袋とか、まぁ、なんて直接的(笑)

ドイツでは、トロリンガー種は2500Ha以上の栽培面積があり(2002年でいうと、2600Haを超えている)、赤品種のうちではシュペートブルグンダーとポルトゥギーザー、ドルンフェルダーに次いで4番目に多い種類である。
これらについては、また別項で述べましょう。

トロリンガー種は、殆どもっぱら、バーデン・ヴュルテムベルク(BW)州で育てられている。
BW州は、南ドイツを二つに割ったフランス側。
昔はバーデンとシュヴァーベンに別れていたけど、戦後一緒になってこの間半世紀を迎えた。
バーデンとヴュルテムベルクはやっぱり縦にすっぱり別れていて、左側、つまりフランス側がバーデンになる。
バーデンの方が日照量が多いのか、ワインといったらバーデンのそこここの地域が「美味しいワイン産地」としてあげられる。
例えばカイザーシュトゥール、ドイツで一番暖かいところとされ、ヨーロッパのワイン栽培カテゴリーではB。
アルザスなどと同じカテゴリーにはいる。

さて、最近、南プファルツ州でも植えられるようになったこのトロリンガー種、ここBW州では既に14世紀に育てられていたことが分かっている。
14世紀って言ったら、室町幕府ができた頃ですがな。
プラハ大、ハイデルクベルク大もこの世紀にできております。
BW州では、このブドウはハウストラウベ、いわゆる自家用ワインとしてシュヴァーベン地方に典型的なワインを供給、
こちらでは日常的にワインを飲む典型的なグラスが、フィアテレス(Vierteles=この場合、1/4l)入るグラスであることから、
このブドウをフィアテレスワインの供給元と名付けている本(下記のワイングロッサリー)もある。

ちなみに、ここいらの地方では、毎日のようにワインを飲むことも珍しくないが、
0.1lしか注がない足の高いワイングラスではなく、
樽型をした、取っ手付き(取っ手もガラス)のガラスコップに250mlなみなみと注がれて飲まれる。
恐らくそのことから「フィアテレスヴァイン Vierteleswein」 (フィアテルは1/4を指す、すなわち1/4l)という呼び方がされたようだが、
しかし、さっきうちの元研究所所長に聞いたら、「それは何?」と言ってた。
「文脈をゆってくれんと、わからんけど・・・」フムフム。
・・・ということだから、それほど広まっている概念ではないらしい。

「要するに、ディリーなワインってことだろうねぇ。」
はい、私もそう思ってました(笑)

閑話休題。lこのトロリンガー種は、ヴァイスヘルプストとしても供されている。ヴァイスヘルプストについては、最後を参照のことね。
それから、もう一つの知られざる宝石、レムベルガーと良くブレンドされます。ブレンドの量によって、レムベルガー入りトロリンガー、トロリンガー入りレムベルガーと名付けられるの。

外の州では、この種はブリュッセラー・トライプハウストラウベ、メラナー・クゥアトラウベ、ブラック・ハンブルクなどという名前で、食用として売られている。
何だか、ジューシーなもんで、そのまま食べてもいけるらしい。
外の品種と掛け合わせるパートナー種としても好んで用いられているそうで、赤品種のムスカート・トロリンガーはこの種の突然変異の可能性があるそうな。

この辺になると、カタカナばかりで私もこんがらがって参ります。
専門家の方でないと分かりません。ごめんなさいまし(笑)

さて、その味と香り。

専門家がみると分かる(私はまだよくわからにゃい)エクセル、このブドウだと70度が普通だとか。
そして酸の方は、赤ワインには珍しく高い7-10パーミルと。ドイツワイン研究所のお話です。

醸造職人(ケラーマイスター)は、このトロリンガー種を大抵、フレッシュ(fresch)でケルニッヒ(kernig)かつ生え抜きのワインへと熟成させるとか。
ドイツにおけるワイン用語を引いてみたら、フレッシュとは若くて酸味のある状態、ケルニッヒとは特徴的な酸味と注目すべき後口をもつ力強さを指すそうな。

そして、「若干の糖度が調和のとれたワインに更に口当たりの良さを加える」と。要するに、飲みやすいってことです(身も蓋もないけど)。
実際、舌に乗せたときに軽い感じです。
しかし、ふわふわと消えてしまう軽さではなく、どちらかというとタンニンが少ないのであります。
そして、いずれの要素もバランス良く丸く収まってるワインにちょっと甘みが加わって、それで飲み口、すいすい、という感じ。

ほら、タンニンが多い、重めのワイン(例えばボルドー、リオハ等々)は、一口含んで、しばらく待って、ごっくんという感じがある。
しかも、一口はほんの少量。飲んだあとも、待つ。しばらく待つ。・・・そして・・・
おお、喉のあとへ消えていった。さてもう一口、もしくはちょいと強めのチーズなどおほおばる、みたいな。

それに比べ、こちらのトロリンガーは一口分、口に含むのも、量からしてちょい多め。
舌に十分含んで、さらりとごっくん。
うむ。
そして、次の一口まで、間をさほど必要としない。
一口ごくり、そしてまた一口。
軽い酸味のためか、のどごしもすっきり。
中でも良いワインに当たると、酸味は決してとんがらず、あるのが返って心地よい。
私、本とは酸味は好きじゃないんですけど。
そして、後味も軽い。一口が、次の一口の邪魔にならない。
料理を味わいつつ、また、おしゃべりを繰り返しつつ、何となく繰り返し欲しくなる。
全体の軽さにあわせて、香りもフルーティー。例えば、料理と一緒にいただく場合、自己主張が激しすぎず、よい。
マスカットなど、マスカット!という香りがもろに甘く、フルーティーという形容を呼ぶ(それがまた良いのだが)が、トロリンガーは爽やかな感じである。

つまみは必ずしもいらない。食後、ワインだけですすむ。
レムベルガーや、リオハ、その他の重たいワインは、チーズなどあるともっと盛り上がるけど、
トロリンガーは私的には何もなくても保つ。
青カビチーズとかベルクチーズみたいなしっかりずっしり、匂いも自己主張が激しいチーズは、このワインにはあまりむかない。

再びワイン研究所のお話。「軽い口当たりで力強く調和のとれた酸味を持つこのワインは、何年も寝かせる必要を持たず、収穫の次の年には飲み頃となる。」

つまり、余り寝かせちゃ、いかんのです。さっさと飲む。
そして次の年にはまた次のワイン。
そこら辺が、また、ワイン愛好家のポリシーに反するところかもしれない。
ワインはやっぱり赤だぜ。赤ワインはやっぱ、イタリア、スペイン、フランス(ボルドー)ワインは渋いからちょっとなあ・・・なんて。
そんな風にワイン道を楽しんでいる方々には、「けっ!」と馬鹿にされてしまう傾向あり。


日常的に楽しむワイン、何年も寝かせられないワイン。
普通、諸手をあげて大事にされるワインとは正反対の性格。
私も実は、今までワインなら外国産、ドイツ赤ワインといえばレムベルガー、そんな日々を送って参りました。
しかし、最近思うに、たまにトロリンガーの方があうじゃん、そんな料理を食べることがあります。
例えば魚。あのあっさり感が、魚のあっさり感とあうのです。


さて、専門家の鼻が伝えるトロリンガーの香りを楽しんでみましょう。
その優雅な花の香りは柔らかなナツメグのノートやワイルドチェリーのアロマをほんのりと感じさせる。
繊細な芳香、フルーティーなブーケを持つ。
ナツメグは、日本語でいうとニクズクです。ドイツ語ではムスカート。実と花では違う香りだとか。
この場合は実です。胡椒っぽい、木の皮のような、ちょっと消毒のような(こう書くといやですが、これがすっきりさせる要素なのです)匂い。
野生っぽくて、きりっとしている。頭をすっきりさせてくれそうな感じ。
ワイルドチェリー。やっぱり野生っぽいんですね。しかし、いずれもほんのりです。
共通項は、さっぱり。すっきり。ちょっと野生っぽく。

殆どのワインはグラスに注ぐと明るい赤色をみせます。
なにか、透けて見えるきれいな赤。セロハンの赤よりちょっと濃いめの、透明感のある赤です。
当たり年には力強いルビー色になるといいます。濃い中にも、何か透明感を残した赤です。
ガーネット色までは行かないのですね。

ワイングロッサリーの作者は、
多くの消費者が殆ど毎日このワインを楽しんでいることから、このワインがあまり体に負担をかけないことが自ずと分かるといっています。
それが本当かどうかは分かりませんが、アルコール度は一般にそれほど高くありません。

ものの本のお勧め料理は、しっかりした軽食、明るめの色をした肉類や、ニュートラルな味のフレッシュタイプチーズ(クリーミィな感じのチーズ)だとか。
ところによっては、さっと焼いた鳥料理を勧めている本もあります。
この地方の人は魚を食べないから、魚と合わせるというお勧めはでてこないのかも。

さて、しっかりした軽食というのは、当地特性のフェシュパーという軽食から来ています。
ドイツでは、4-5時にカフェツァイト、つまりコーヒータイムというのが、戦後以降、特に週末に特有の食物摂取形式だったんですけど、
働き者で貯蓄家(けちともいう)、質実剛健なシュヴァーベン人、
コーヒーとケーキを食べる代わり、パンに何か挟んで食べたりする、18世紀頃に既にあった小さな食事をそのまま続けたのですな(当時のかなりの貧乏さ加減ももちろん多大な影響を与えています)。
これは、温かいものがない、冷たいお食事。
火がいらないので、すべてを台所の棚や何かから取り出して並べて終わり。
それがフェシュパーと呼ばれるわけですが、これにあったのがどうやらトロリンガーワイン。

しかし、「なーんだぜいたく」なんておっしゃらないでね。
フェシュパーがある日は、どうやら夕食がないのですよ。


さて、終わりにWeißherbst(ヴァイスヘルプスト)
ヴァイスヘルプストは、赤ブドウを用いて白ワインの作り方で作るロゼワインの一種。
ブドウをことのほかおだやかに大事に圧搾し、ブドウがぱっくりと口を開き、そのジュースだけがたらりたらりと垂れるのを待って、
それをワインにする。
色素は皮に含まれ、従ってタンニン酸も殆ど皮の部分に含まれることから、できるワインはきれいなロゼ色に輝く、すっきりした味のものになる。
この手法を用いる場合、熟成させるブドウは95%まで同じ種類を使うべしという規定がある。

・・・というわけで、
ヴァイスヘルプストについては、ロゼの項(いつupするんだろう)にて、
また、改めて語りたいと思います。

おお、ドイツの赤ワインが取れるところで広まっている赤ワインのケーキ、
こちらもお勧めです。
日本で食べ慣れているケーキとはひと味違います。是非、お試しを。
レシピをごらんになりたい方は、
旨うま! ドイツ 赤ワイン・ケーキ/クーヘンもしくはドイツ 赤ワイン ケーキ/クーヘンをご覧ください。
(内容的にはどちらも同じ)




参考文献。
ドイツワイン研究所HP http://www.deutscheweine.de
Wein-Plus Wein-Glossar http://www.wein-plus.de/glossar
Wein Schlicht 最近アイスワインを買ったお店。そのうち、HP改装開店の予定。今は工事中で、なんも見られません。
hhtp://www.schlicht-wein.de









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